待ち合わせの星に来ない

感性のリハビリ

スタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』

見てきた。IMAXで。ただただ身を委ねるしかない3時間を過ごすにIMAX環境は至高だった。

 

例のトラップシーンは最大限の音響と映像効果で、本当に自分が流れに呑まれているみたい。私は初見だったので、何が何やら分からぬまま濁流に身を任せていたのだけど、何故だか強く「う、生まれる…」と思った。まだ私は生を受ける前の意識だけある状態で、早くここから抜けて目を開けて声を上げたい。この暗いチカチカを過ぎれば私は生まれることができる。そう思ってただ身を硬くしてたんだけど、よく考えたらなんでそんな風に感じたんだろう。実際あの場面はスターチャイルドとして生まれ変わる過程のシーンだったけれど、それが分からないうちから謎の「生を受ける」感があった理由はなんなのか。あんなに抽象的なのに。もしかしたら全員生まれる直前にああいう体験をしていたんじゃないだろうか。臨死体験というのは聞いたことあるけど、臨生体験があるのならばこれのことだと思う。

 

小さい頃、人は猿から進化したと教わり、では何故猿がまだ猿として存在しているのかと不思議だった。最近人に進化した猿というのも聞いたことがないので、何らかのミラクルの重なりの果てに進化が起こりヒトが誕生したのだろうが、遠い昔にあったことなら何百万年周期でもう一度実現したってなんら不思議じゃない。ヒトの誕生をもたらした偶然の重なりをモノリスという一つの物体にすることで、ファンタジーな設定でありながら「また同じことが起こり得るのではないか」と思わせる説得力と迫力があった。

スターチャイルドになる人間は何を感じるんだろう。初めて道具を使った猿は喜びの雄叫びをあげていたけど、老いたボーマンはあまり嬉しそうじゃなかったな。でも、猿が私達を見てもきっと何を考えているか分からないように、私たちもスターチャイルドのことは分からないんだろう。猿から人間レベルの進化なら、スターチャイルドは人間の感性を超えきっているはずだから。

そう思うとあまり意味が分からなかったラストシーンも、スターチャイルドになれば理解できるのかもしれないな。

 

2001年宇宙の旅 (字幕版)

2001年宇宙の旅 (字幕版)